はるかのだいありぃ

そうして初めて，多分リノア以上に楽しみに待っていた自分の誕生日。
リノアが“頑張った”甲斐が伺える，彩り良く並べられた料理と一緒に並んでいたのは
リノアが作っていたケーキによく似た，だが明らかに職人（プロ）の手による本物の，食べられるケーキだった。



「あの，リノアが作っていたケーキはどうしたんだ？」

聞きたいのに聞けない，この焦燥感。
こうしている間にも，役目を終えたアレがゴミとして捨てられていくような気がする。
いや，このケーキの出所を辿れば，アレの行き先も解るかもしれない
コレは，あのケーキをモデルにして作られたのは確かなんだから。

蝋燭の立てられたケーキを見ながら，自分の記憶を照会し，覚えのある洋菓子店と突き合わせていく
あの店とはフルーツのカットが違うし，あの店で花飾りが付いているのは見たことがない，…
そうしている間に明かりが消され，蝋燭の灯りの向こう，キラキラと嬉しそうに光るリノアの瞳を見たら
今，この瞬間は心から楽しまないとリノアに悪いと思った


-------あのケーキは，絶対にこの手に取り戻す


蝋燭を吹き消す瞬間に思い浮かべたのがこの言葉だったとは，リノアには当然言えなかったけれど。



リノアに悪いと思ったが，ケーキを食べている間も記憶と照合するのは止められなかった
リノアを食べている間はすっかり忘れていたのが，赦されない事なのかどうかは俺にはわからない






さて，どうするか。
一か八かで，だがさり気なく「このフルーツ，珍しいカットだな。どこのケーキだ？」と聞いてみたが。
とびっきりの，だが有無を言わさぬ笑顔で「…内緒♪」と返された。
リノアが入浴している間に包装紙や紙袋を探してみたが，見つけられなかったし
そもそもこの部屋のあちこちにあったハズの，紙片屑や接着剤の跡も綺麗になくなっている。
彼女にしては珍しく，だが完璧に証拠隠滅は図られてしまったらしい。



まずは，場所の特定からか。
時間が経てば経つだけ，ゴミとして焼却されてしまう可能性が高い。

意図したわけではなかったが，いつもどおりに起きた俺に対して，リノアはあと数時間は目覚めそうにない。
彼女が夜明けの珈琲を飲みたがったことはないし，このまま寝ていて貰って，その間に調べさせて貰おう。







まだ起き出していないガーデン内で，起き続けている教職員達。
その本拠地である教職員室に，SeeD司令官の意地に賭けて侵入し，リノアの外出届けを探す。
無人で，照明が落ちていればまだいくらか楽だったんだろうが。
早朝だと言うのに常と変わらず，その身から殺気すら漂わせているヤマザキ先生の目から逃れるために，予定以上に時間と神経を費やすことになった。

今は，指定時刻に届けてくれる宅急便もあるし，それを使えばガルバディアからだって半日で着くらしいが。
今回のあのケーキは，何度か打合せしてから作られているのは間違いない。
だからリノアが行きやすい，バラムの洋菓子店なのは確かだと思うが，一軒ずつ当たっている時間的余裕はない。
往復の時間を考えたら，探索に使える時間は１時間足らずだ。

-----リノアが目覚めた時に，珈琲ならぬ紅茶の一杯も用意しておかないと，…
勿論俺の方が“ほんの少し”先に目覚めたような風を装って，だ。



机一つ分も隔てていない場所で，ヤマザキ先生と背中合わせで居られたのは，天が俺に味方してくれたとしか言いようがない。

行き先：バラム港

バラム駅前の繁華街の中の一軒と予測していたが。
リノアにバラム港に用があるとは思えないし，そんなことを言っていたような記憶もない。
港の奥の方へは俺もあまり行ったことがないし，鮮魚店に囲まれた洋菓子店があるのかも知れない





再び教員達の目を摺り抜けて駐車場に行き，車をバラムへと走らせる。
港を一周してみたが，それらしき店は見つけられなかった。
念のため，港に近く駅前繁華街からは外れにある，洋菓子店のいくつかも当たってはみたが，どれもハズレだったし
万に一つの望みを賭けてセルフィに電話もしてみたが，寝起きで不機嫌な彼女の答えは

『リノアはティンバーに行ったんやなかったのん～？』

だった。
ティンバーに行ったのは知っている，…と言うか，リノアの外出届けから知ったのだが。
一度だけだ。これとは別件だろう。

-------ここで八方塞がりになるとは思わなかった…







***

セルフィのシーンは伏線だったんでしが．
正式うｐ時には削りま・・・・・予定です
（ワタシ的倫理委員会の査定にひっかかりました・苦笑）
（でもまだ代替案詰めてにゃ～・汗）